2015年3月22日日曜日

Book Review 卵をめぐる祖父の戦争


高校生にはちょっと早いかな~と思ったのですが、この一冊ディヴィット・ベニオフ 

『 卵をめぐる祖父の戦争 』


すばらしく面白い本でした。

夢中になって時間をたつのも忘れて読みふけりました。

とても残酷で、ショッキングなシーンがあるのだけれど、そして、ナチズムにスターリン体制という暗い時代、独ソ戦という史上最悪の陰惨な戦争のまっただ中で、救いようのない程の腐敗や卑劣さや人間性の堕落がベースにあるのだけれど...

にもかかわらず、不思議にからりとした明るさがある。そして、ユーモア。読後の感動、爽快感。

この小説の持つ不思議に明るいトーンはどこから来るのか?

それは、絶望の中で、どうしようもない程にあきらめているからこそ生じる一種開き直った明るさなのかもしれないけれど…

この小説は主人公を脇で固める二人の人物造形が秀逸なのだ。

その一人、主人公とコンビを組んで前線を抜けて卵を探しにでかける文学青年コーリャ。

小説家志望のコーリャは、自分が追い込まれた極限状況を、いずれ書き上げるつもりの小説の取材だと考えている。

そして、絶体絶命の事態すら小説風に客観化して考える。

それが、コーリャを救い、主人公を救い、読者の我々をも救ってくれる。

もう一人、道中一緒に行動することになるパルチザンの少女戦士ヴィカ。

無口で非情な戦士の彼女だけど、その存在感は圧倒的で、彼女の行動が物語をクライマックスに押し上げてゆく。

没頭するような読書体験というものは、そうは味わえない。

そして、心をえぐられるような戦争の悲惨さを知ってなお、世界は美しいと思わせる物語。

ああやっぱり、信じるに値する人がきっとこの世にはいるし、誰にとっても人生は価値があると思わせてくれる本。

この本は、そのような経験をさせてくれる稀有な一冊である。







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